で、我らが輸出仕様TLM50です。
欧州向けに開発された競技専用の1985年モデルです。
車体と足回りは国内用と基本的に同じですが、ヘッドライトやシート
を輸出用のTLR250と共通化し、よりコンペティティブになってます。
輸出用と言う事で、速度規制や騒音規制で力不足だったエンジンに
も手が加えられ、僅かながら?もパワーアップしてます。
輸出用TLM50Mのポートタイミングと圧縮比

T
LR200の成功を受け、国産初の50ccフルサイズトライアルマシンとして投入されたTLM50。
60km規制の中で良く纏められたバイクで、30過ぎの私でも2〜3ヶ月の練習で60〜70cmのステアケースを上れる様になりま
した。(中部選手権では、小学生(藤波選手?)が軽々と1mの真直角を上り、優勝してたんですが・・・)
しかし、規制の中で妥協したバイクはそれなりの物でしか有りません。販売実績がそれを実証してます。
バイク初心者にとっては乗り難い変なバイクでしかなく、トライアルを楽しんでる人にとっては余りに非力なエンジンでした。
ホンダは、開発にあたってイタリア製ファンティック50を手に入れたそうです。しかし、原付の60km規制に縛られファンティックの
楽しさを手に入れる事は出来ませんでした。
私は50では無くファンティック80を所有してましたが、当時のTL125やTY125より確実に戦闘力が有りました。
プチ自慢になりますが、TY175、RS200に混じって、ファンティック80で優勝した事が有ります。 参加人数不足で試合不成立とな
りましたが、記念に頂いた金メダルは今でも大切に持ってます。
この優勝には、乗ってた私自身が一番驚きました。私でさえ優勝です。当時のファンティック50/80の戦闘力や楽しさが、少しは
分って頂けると思います
ファンティック T50
エンジン 2サイクルピストンバルブ
圧縮比
最高出力 6ps (DIN)
ミッション 6段リターン
潤滑方式 2%混合ガソリン
乾燥重量 67.5kg
最高速 47km/h
イタルジェット・トライアル50T
エンジン 2ストローク
圧縮比 12.2
最高出力
ミッション 6スピード
潤滑方式 3%混合ガソリン
重量 71kg
最高速
TLM50開発時の参考モデルとなったファンティックです。当時の価
格は39万円。前後アルミリムです。
こちらも前後アルミリム。価格も同じく39万円。
エンジン 2サイクルピストンリードバルブ
圧縮比 7.2 (7.2)
最高出力 5.4PS/7500rpm (4.8PS/7000rpm)
最大トルク 0.53kgm/7000rpm (0.52kgm/7000rpm)
ミッション 5段リターン
乾燥重量 70kg (73s)
潤滑方式 混合潤滑式 (分離潤滑式)
( )内は国内用TLM50
排気ポートと圧縮比

国内用と欧州用、圧縮比は変わらないのに、最高出力が違うのに疑問を感じた方が居られると思います。
4ストロークエンジンは行程全てで計算しますが、 2ストロークの場合は排気ポート上辺からシリンダー上面の距離で計算します。
つまり同じ圧縮比で有っても、ポート上辺が上がれば有効圧縮量が少なくなりますので、ヘッド容積は少なくなります。
輸出用TLM50の予定台数は400台と少なく(実際はもっと少なかったかもしれません)、TLM50シリンダーの排気ポートのみを手
加工で1mm削り、燃焼室容量を減らして圧縮比を7.2にして有ります。
これならば!手軽に欧州向けのエンジンを再現出来ますね。

手元にあるスタンダードシリンダーが、シリンダー上面から排気ポート上辺まで29.5mmですので輸出用は28.5mmとなります。
半径×半径×3.14×29.5=35.2ccですので、35.2ccがTLM50の有効圧縮量になります。 これを圧縮比7.2で推定してみますと・・・
35.2+5.65(推定燃焼室容積)÷5.65(推定燃焼室容積)=7.23(圧縮比)ですので、燃焼室容積は5.65ccになります。此処からガ
スケットの容積0.61を引くと、ヘッドの容積は5.04ccになります。
欧州向けTLM50は、シリンダー上面から排気ポート上辺までが28.5mmですので、有効圧縮量は34.0ccになり圧縮比7.2で推定す
ると・・・
34.0+5.45(推定燃焼室容積)÷5.45(推定燃焼室容積)=7.23(圧縮比)ですので、燃焼室容積は5.45tになります。此処から同
じくガスケット容積を引くと、輸出用のヘッド容積は4.84ccになります。
排気ポート加工とそれに伴ってのヘッド加工、さらにCDIの変更で最高出力発生回転数が500回転上がり、0.6馬力パワーアップし
てます。(これをベースに、キャブとサイレンサーを交換すれば、さらにパワーが出るかも知れません)
このエンジンが、ホンダの技術者が本当に作りたかったTLM50用のエンジンなのかも知れません。また、このエンジンで有ればT
LM50の評価も違った物になってた事でしょう。原付の60km規制が悔やまれます。

で、これを踏まえて、パンチ力を出す為に8〜9とさらに圧縮を上げて楽しむ方も居られると思いますが?圧縮を上げると発熱量も増
えます。 スタンダードのキャブセッティングでは薄くなってきますので、変な臭いがしたら即エンジンを停止し、M.J.を10番〜20番濃
くして下さい。また、圧縮を上げ過ぎるとポンピングロスを起し逆効果になりますので、何事もほどほどに・・・

イタルジェットの圧縮比が12.2になってますが、ヨーロッパでは計算方式が異なってる可能性が有ります。(4ストロークと同じく排気
量で計算したのかも・・・)


また、圧縮を上げると高回転の伸びが悪くなりますので、現在のロードレースでは高圧縮の方向では有りませ。2ストロークエンジ
ンはポート位置や形状、圧縮により性格がガラッと変わります。面白い反面失敗すれば取り返しが付きませんので、どのようなエン
ジンにするか良く考えてから、ヤスリを手にしましょう。

※このページはポートタイミングと圧縮の関係を説明するためのものです。
計算間違いその他、現物のデータとは合わないかも知れませんが、ご了承下さい。
戻る

<参考資料>
●モーターファン 別冊 ゼロハンチューニング専科 且O栄書房
●ストレートオン118 トライアルマシン解体新書 (五十嵐良宏 著) (有)悠々社
inserted by FC2 system